2003年5月某日。
若かりしサトウ青年は銀座のとあるマンションの一室にいた。
会社事務所として使われていたその部屋では、バーテンダー採用の面接が行われていた。
そこに面接される側として訪れたのだった。

それが、僕と、開店を一ヵ月後に控えたKEEL'S BARとの出会いだ。

大学二年生の時からノメリ込んでいたバーテンダーという仕事。
次のステップをと地元の店を辞め、新天地を求めていた。

そこで、ビールを美味しく出すのがメインの店だと言われる。
もちろんドライドックとは違って、BARなのでフレッシュフルーツを使ったカクテルやウィスキー、
ワインなどもいいものを出すのだが、ビールに対して、特にドラフトビールを注ぐことを
"ただ" 液体注いで、泡乗せるだけの作業としか思ってなかったサトウは、
実はあまりオモシロク思っていなかったりしたものだ。
バーテンダー、カクテル創ってナンボ。とにかくシェイカーを振らせておくれ。
いや (ビールも嫌いじゃないし) 、Bassペールエールとか結構飲みますけどね。

とは心でちょっとだけ思っていた。

面接のおじさ、、、いや、社長には、
「いやー、ビール好きっす。Bass ペールエールとかよく飲みますし、美味しいと思います。」
とか答えていた訳です。

すると、どうしたことか、社長は冷蔵庫からビンを取り出してくる。

「???」

しゃちょさん「これ飲んだことあるか?」

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さ「アサヒ・スタウト??いえ、ないっす。。。」

しゃ「飲んでみるか?」

さ「えっ?。。。は、はい。。。」

(断れるはずがなかろう)

空きっ腹に流れ込んで行くアルコール 8%の炭酸飲料は、胃の中で暴れ、
サトウの顔は一瞬で赤紫色へ。

アサヒ スタウト
http://www.asahibeer.co.jp/products/beer/stout/
シェリーや紹興酒、醤油、そしてレーズンのようなドライフルーツをも思わすスバラシイ香り。
口に含むとしっかりした甘味、酸味、そしてロースト香が広がり、アルコールの温かみを
どっしりと感じる。とても複雑でエール特有のフルーティさが心地よく、
そして、その濃厚な味わいを苦みが引き締める。少し高めの温度でゆっくりと味わいたい。
大阪、吹田工場で専用の設備を使い、年に数回のみ醸造されるとのこと。そのへんの酒屋では
見かけることのない貴重なビールと言える。
ビアハンターこと故・マイケル ジャクソン氏も「スモウスタウト」と讃え、著書のなかで絶賛。


。。。なんてことを若造が知る由もなく、あえなく撃沈。。。
気づけば新橋駅にいたものの違う方向の電車に乗り、家に着いたのはかなり遅い時間だった。

今でこそ、面接で自分のことを気に入ってくれて、イイものを紹介したいという社長の優しさで
あることを理解するも、この本当にスバラシイ黒い麦酒との出逢いは、
文字通り、かなりヘヴィでほろ苦いどころの話しではなかったのだ。

時に7年半前のことである。